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明代、正徳帝の御世…。
宮中を慌ただしく大内密探らが駆け回る。彼らはある青年の前に立ちふさがり、刀に手をかけて構えた。青年の正体は…妹の長公主と示し合わせて、宮中を抜け出そうとした正徳帝そのヒトだった。皇帝が簀巻きにされて運び去られる騒ぎの中で、首尾よく正門から抜け出した人影があった。それこそ男装の姫君、無双長公主だったのだ。
皇帝を前に、大内密探隊長から姫の出奔を報告された皇太后は呆れ怒る。皇帝は母の前では萎縮して何も言えない。皇太后は中庭の桃の木を見て思いにふける。先帝が没して以来、あの桃は花をつけなくなった。先帝が子供たちの行く末を案じておられるからでは…?
俺の名は李一龍。故郷の梅龍鎮では小覇王(ごろつき)と呼ばれ、物心ついたときから盗み、嫌がらせ、いじめなどあらゆる悪事を働いてきた。母親が死ぬと家を飛び出し、馬賊に加わって世界を股にかけ、好き放題に生きてきた。
ある日、俺はスピード違反取り締まり官にきつく叱責された。そいつは何と、子供の頃に散々叱られた陳校長そのヒトだったのだ。陳校長にお仕置きをされた俺は、何だかひどく故郷が懐かしくなった。俺は一散に馬を走らせ、2年ぶりに梅龍鎮へと向かった…。
梅龍鎮の宿屋兼食堂「龍鳳店」をたった一人で切り回すのは、男装の少女鳳姐。殺気を感じた彼女は、棍棒を握り締めて池端で待つ。現われたのは、李一龍。何と二人は兄妹だった。そこに現われたのは、義弟の仇を討ちに来たとばかりに鳳姐に勝負を挑む千手如来神掌の左冷禅。だが一龍と鳳姐の無敵の共同戦線にボロ負け、さしもの剣士も泣き叫びながら逃げていった。後に彼がモノした「江湖血涙史」には、泣き叫んだとは書いてないが…。
可愛い妹があまりに女っけに乏しいので、心配した俺は婿探しを始めた。だが街の人々は俺を恐れ、絶交状まで持ってくる始末。悪友らと脅し半分で「街で燃え続ける真心の炉に手を入れ、火傷しなかった男を婿とし、俺は去る」と宣言すると、俺を追い払いたい一心の男たちが詰め掛けた。だがみんな火に手を焼かれて逃げ去った。
やれやれ、こんなに大勢が執念深く昔のことを覚えていて、俺を嫌っているとはな…。
無双長公主は、まんまとスリにやられて一文なしで梅龍鎮にたどり着いた。 「龍鳳店」向かいの小食堂に入った彼女は、李一龍と視線を交わした途端、電流が走るような感覚を覚えた。(そのとき、二人の距離は3.08メートル。4分の1の線香が燃え尽きる時間の後、私は知った。…こいつは私に奢ってくれるに違いない!) それは一龍も同じだった。(そのとき、二人の距離は0.01マイル。しかし4分の1秒後、俺は感電したようにしびれた。しかし俺は一人の男のせいで感電したとは、思いもしなかった。1千年後、ある映画がこのような何もかも捨てられる、狂おしいほどの恋情を描写する。しかし間違えるな、「藍宇」じゃないぞ…)小食堂の太っちょ主人も、後に自著「誓って頭を下げない…俺と小覇王が対抗した30年」に、こう書くのだ。(そのとき俺は彼らの間に何メートルあったか知らんが、4分の1秒後にはこう考えていた。機会があったら、今度こそ毒を入れて、あいつら殺してやる!)
李一龍に 「このテーブルに来いよ、奢ってやるから」と声をかけられ、無双長公主はこれ幸いとお相伴に預かる。美男の貴公子と見込んだ一龍は、妹の婿にぴったりだと考えながら楽しく杯を交わす。鳳姐の心づくしの麺も、貴公子は美味しく食べた。兄妹は大喜び。王貴公子と名乗った彼女を、妹は自分の夫にと、兄は自分の親友にと心騒がせる。
一度は一龍に長々と見送られ、梅龍鎮を去った長公主だったが、何故かまた引き付けられるかのように舞い戻った。何気ないふりをしながらも、手厚くもてなす兄妹。
3人で楽しく酔いつぶれた夜、目が覚めると長公主は一龍と抱き合うように寝床にいた。あせって寝返りを打つと、鳳姐と抱き合う形に。今まで崇め奉られ、スキンシップに慣れていない長公主は、初めて人の肌の温もりを知った。
街で不思議な辻占に将来を予言された兄妹と長公主。長公主は占い師に「公主」と呼ばれてドッキリ、慌てて立ち去ろうとした。だが周囲には大内密探らが。動揺の余り、言いがかりをつけてきた知府の長官の息子を殴り倒して知府に連行された公主だった。
急を聞いて駆けつけた一龍と鳳姐は、周囲にひれ伏され困惑する長公主の姿に驚く。「君は一体誰だ?」と一龍に問われ、長公主はとうとう宮廷に戻る日が来たと覚悟を決めた。「あなたは夫となったら、妻を大事に愛さなきゃ…」兄を見つめ続けるその視線に、失恋を悟って泣く鳳姐。だが兄の肩にすがって泣くのは…長公主!
慌ただしく出立した長公主が残した荷物を、一龍と鳳姐は開けてみた。中には龍の刺繍の入った黄色い絹地の上着が。それは梅龍鎮で落ち合うはずだった正徳帝のものだったが、兄妹はてっきり長公主こそが青年皇帝だったのだと早とちりする。
一龍は意を決して長公主の後を追う。彼女もまた、一陣の突風でお供が動揺した隙に、輿から出て湿地帯に逃げ込んだ。二人はやっと再会するが、同時に肩まで泥に埋まって抜けられなくなってしまった。困惑しながらも、一龍の優しさに触れ(このまま2人きりでいられたら)と願う長公主。一龍も思いは同じだった。
兄の帰りを待つ鳳姐に、再び左冷禅が勝負を挑んだ。鳳姐、危うし! そこに「眉来眼去(めまい?)剣法」を駆使して鳳姐を助太刀したのは、正徳帝その人だった! 彼は江南の野花のような鳳姐に一目惚れ。鳳姐も、貴公子には感じなかったときめきを感じる。これが恋なの? 左冷禅の襲来を防ぐ名目で、寝床を共にする二人。だが寝室に続々と現われたのは間抜けな大内密探らだった。正徳帝は「本来なら才能があって自由な発想の持ち主のボクなのに、皇帝なんて重圧を負わされたばっかりに何も出来ない。哀れなボクを、可愛そうだと思って見逃してよ」と隊長を丸め込み、ちゃっかり鳳姐のヒモの座に収まった。
農民一家にやっと救い出された一龍と長公主。その夜、農家の庭で夕食をご馳走になった二人は思わず歌い踊るのだった。まだ彼女を皇帝だと思い込んでいる一龍は、泥にまみれた体を洗ってやると言うが彼女は必死になって拒む。やっと背中だけをさすることを許す。一龍は彼女に教えた。悔しくて悲しくてやりきれないとき、自分は拳を握り締め、大きく深呼吸して天を見上げる。そうするとどんな苦悩も薄れ、どんなことでもあきらめられるのだと。挫折の経験がなく、訳もわからないのに真似してみる長公主だった。
川原で咲き誇る桃の樹。その下で、ついに意を決した長公主は告白する。「君のことが好きだ。私は女なんだ!」一龍はショックのあまり、樹にすがってよよよち泣き崩れる。「俺の妹に何て申し開きをしたらいいんだ! 最悪なのは、俺がそれを聞いて嬉しいことだああ!」。彼をなだめ、二人で謝罪しに梅龍鎮に戻ろうと慰める長公主だった。
鳳姐は正徳帝に、兄が完全に世をすねて2年前に街から去ったのは、昔の恋人に裏切られたからだと告げた。街の貧しい娘が足にケガをしたとき、一龍は自分が背負って彼女を運んでやった。二人は恋に落ちた。だが彼女の父親が大きな街に出て成功を収め、地位を得たために、恋人たちは引き裂かれたのだ。恋人は金持ちの商人の元に嫁に行った…。
鳳姐は自分が王貴公子を好きだったのか、 正徳帝の方を好きなのか迷い、真心の炉に手をかざすが火傷してしまった。正徳帝は少しも彼女をなじらず「真心の炉に手を差し伸べ自分の本心を知ろうとした時点で、すでに真心は失われていたのだ」と諭す。二人で心を一つにして炉に手を差し伸べると、不思議なことに少しも火傷しなかった。二人はついに、真心を捧げられる相手を見つけたのだ。
恋に夢中になり、自由を謳歌する正徳帝。髪は巨大なアフロヘア、姿は日本の浪人のような着流しに雪駄。彼は大内密探らにもカラフルアタッシュケースを持たせ、厚底靴を履かせる。鳳姐も上海モダンガールに変身?! 悦に入る正徳帝だったが、そこに何と、皇太后が出現した!
一龍と一緒に戻ってきた長公主も、皇太后の前へ。正徳帝は今度こそひるまず、母に「鳳姐と結婚する!」と宣言した。その心意気に免じて、結婚を許そうと告げる皇太后。しかし、長公主に対しては、皇太后は容赦なく一龍の過去を暴き、結婚を許さないと宣言する。必死に抗弁する長公主に、皇太后は一対の指輪を差し出した。龍と鳳凰をかたどった指輪をはめ、もしも指輪が主を拒まないなら結婚は許され、一生一緒にいられるというのだ。
これは一種の賭けだった。うなだれる一龍の手に無理に指輪をはめ、共に手をかざす公主。だが一龍の手から、指輪はするりと抜けた。一龍は涙をこらえて拳を握り締め、深呼吸し、公主に背を向け立ち去る。「兄にこんなひどいことしないで!」と泣き叫ぶ鳳姐を、正徳帝はしっかりと抱きしめた。失意の公主は宮廷に連れ戻された…。
正徳帝と后となった鳳姐に、繰り返し「逃げ出そうよ」と誘う公主。ついには皇太后にまで同じ誘いをかけるようになった。何度も連れ戻され、逃亡が失敗するたび、錯乱が深まる公主。心を痛める正徳帝と鳳姐。ついに皇太后は、彼女を地方へ降嫁させることを決めた。抗議する正徳帝と鳳姐に、皇太后は言い放つ。「私は気の触れた公主など傍に置きたくないのです」
街に残った一龍は、たった一人であの楽しかった宴を再現していた。どんなに話し掛けても、どんなに笑いかけても、公主は帰って来ない…。
酔いつぶれた彼の傍らに、かつての恋人がそっと腰を下ろした。「私は夫と別れたの」「…俺にどうしてほしいというんだ?」「……」。一龍は母の形見の金鎖を手首から外し、彼女に差し出した。「持って行けよ。女一人で生きるのは大変だ」「不思議ね、あの頃のあなたは私にこれをくれなかった。どうしてかしら」
彼女はすうっと門を出て行った。代わって現われたのは情比金堅。「バカだなあ、あんた。私があんなに暗示をかけてやったのにさ」「おまえ、一体何者だ?」「公主が8歳のとき、道端で傷ついた子ウサギを拾って手当てしてやった。ウサギはずっと恩を忘れず、陰に日なたに彼女を助けてきたのさ。突風も私が起こして公主を逃がしたんだ…」
一龍が考え込むうちに、彼(彼女?)はすうっと門の向こうに消えた。すぐに一龍の悪友たちが駆け込んできた。一龍は彼女を見なかったかと彼らに聞くが、誰も知らないという。「あいつは兄貴の友達だと言って、一足早くこの町に来たんですぜ」「いや、俺はてっきりおまえらの仲間だとばかり…?」首をひねる一龍。もしや彼女は、縁を司る赤い糸を操るという伝説の玉兎の化身だったのか?
悪友たちは、公主の嫁入り行列を見たと一龍に告げた。彼は意を決して馬に飛び乗る。(もう何にもしないで深呼吸してうなだれ、あきらめるのはやめだ! やれるだけのことはやってみるんだ!)
嫁入り行列の前に立ちふさがる李一龍! 「非礼な真似を! 叩き切られたいのか!」口々に叫ぶ警備の者をものともせず、彼は叫んだ。「非礼を働きたいのではない、ただ公主と二言なりとも話したいことがある!」 強行突破しようとする一龍。色めき立つ護衛たち! だがそのとき、紅い輿の扉が開き、大内密探の隊長が涙しながら顔を出して叫んだ。「公主は河原の桃の樹の下だ! あまりにおいたわしいので、私は命を捨てる覚悟で身代わりを務めたのだ! 一龍殿、急がれよ!」
俺は川原で馬から下りた。桃の樹の下で、公主は俺にまるで気づかず、ブツブツと独り言を繰り返していた。よく聞くと、それは俺が彼女にした話の再現だった。酒に酔った俺と同じように、錯乱した彼女もまた、在りし日の俺との会話を繰り返すことで、楽しかった過去に逃げ込もうとしていたのだ。俺は決心した。それなら、俺が彼女の言葉を繰り返すまでだ。
彼女は俺に、俺は彼女に成り切って、不思議な会話が始まった。俺は指輪を取り出した。龍と鳳凰をかたどった、あの指輪だ。彼女は力なく首を振った。だが俺は彼女の手に指輪をはめ、俺の手にもはめて、あのときと同じように両方の腕を前にまっすぐ伸ばした。ただし今回は…。
すると、指輪は……!!
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