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ボクは馬須仁、リチャード・マーというが、リチャードと呼ばれるのが好きだ。須仁は広東語で「衰人(ずるい人)」と同じ発音になってしまうから。
ボクは ニューヨークで企業買収・合併吸収の橋渡しをする事業で若くして成功を収め、タイムやニューズウィークやピープル誌にも紹介された。トム・ヤムは僕の同級生で親友で法律顧問。20数年の付き合いで、ボクの香港の事業はもっぱらトムと秘書のヘレナ・ハーに任せてきた。ヘレナに確認すると、ボクの香港での3年間の収益は、利息だけでも927万5622.4香港ドル(約1億4千万円)だ。
香港・西貢にある自宅には、2年付き合って自宅の管理を任せたガールフレンドのマーシャが待っていた。僕の顔を見たとたん、彼女は米国に移住した母が病気になって50万ドル必要だ、と嘘泣きをする。僕は理屈を説いて金はやらないと言った。すると彼女は憤然として出て行った。
ボクが次にしたのは、トムとヘレナを引き連れ僕の会社に乗り込んでリストラを敢行すること。受付係も経理担当者も、目に入った社員はみな即刻リストラした。ヘレナは「6年間昇給がない、私にもプライベートタイムが必要です」と文句を言い、言い返すと「私は5年間休暇なしに働いてきたのよ! 今日限りで辞める!」とヒステリーを起こして出て行った。やれやれ。
僕の父が一生のうちに僕に教えたことは一つだけ。「女に対して慷慨(怒り嘆く)するな」ってことだ。父は僕の母だけを愛し、尽くしまくって欲しいものは何でも買ってやった。それなのに、母は「退屈だから絵画が習いたい」とせがんだ。父は八方に手を回して画家を家庭教師に雇った。すると二人は、絵を描き終わるやベッドに直行した。母はこの画家と駆け落ちしたがり、父は彼らが食い詰めるのを恐れて彼らにフラットをプレゼントした。
結果は? 父はいま60数歳で現役を退いた。ロンドン大学に留学して学位を取った立派な紳士なのに、水道管が故障するたび母は「修理してちょうだい」と電話1本で父を呼び寄せるんだ。だから、女によくしてやることなんかない。結局は金目当てなんだから。決して彼女らに騙されて金を奪われないことだ。
トムは「君が毎年ガールフレンドを取り替えてもおかしくないな。そんなに吝嗇(りんしょく)じゃ、誰も君について来てはくれないぞ」と忠告してくれた。だけど僕は密かに願ってる。Love
is blind. Money does'nt count.中国語では「有情飲水飽」。愛さえあれば、他に何にもいらないと僕に言ってくれる女性の出現を……。
ボクとトムは腹ごしらえをすることにした。オフィスでカップヌードル食えばいいじゃん、とボクは言ったのだが、トムがおごるというのなら話は別だ。でも中環で食べると高いからなあ。ちょっと遠出して二人でテキトーに入ったのは、蛇王林という、蛇スープが名物の大衆食堂。相席になったのは、投資コンサルタント会社の電話セールス嬢の美女二人。片方はボクの美貌にぼうっとなり(もしもこんな男が飼い犬だったらどんなに…)と妄想しながら秋波を送ってきた。彼女の名前は、麻酔薬のクロロフォルムと同じ発音のコーラ・フォン歌羅芳。トムの好みの女らしく「麻酔しなくても見るだけで気絶しそうにいい女だ」とボクに耳打ちしてきた。好き者め。
彼女の連れは阿彩。コーラよりボク好みだ。ボクらはそのとき知らなかったが、彼女は十四郷沙牛角村の村長の愛娘で、同郷の太っちょで薄らバカの阿牛に追い掛け回されて、ほとほと困っていた。父は「同郷の男と結婚するのが幸せだ」と言ってきかず、台湾出身の母も亡くなって、誰も彼女をかばってはくれない。阿牛は蛇が苦手なので、この1週間というもの彼女らはランチを蛇王林で取っていたのだ。
店員がうっかり逃がした毒蛇が、逃げ遅れたボクの股間に迫った。床にしりもちをついて悲鳴をあげるボク。ところが阿彩は難なく蛇をつかんで店員に返した。肝が据わった女だなあ。
その夜、ボクとトムは友人が新装オープンしたバーに祝いに行った。そこで再会したのがコーラと阿彩。賭けに負けた僕らは、2人を夜食に連れて行く。ところが彼女らは遠慮ってものを知らず、高価なロブスター刺身や海鮮料理をバンバン頼む。コーラを酔い潰すことに失敗したトムはへべれけ。ボクがゴールドカードで支払おうとすると、ウェイター長が2枚とも使えないという。手持ちの現金はあと600数ドル足りない。トムは飲酒運転でさっさと帰ってしまった。おいおい! ウェイター長がしつこく食い下がる。仕方なく、ボクは阿彩に借金してしまった。
自宅に戻ると真っ暗。家具もきれいさっぱり無くなっていた。マーシャの仕返しだ。彼女はボクのクレジットカードの契約を全て解除し、家具を老人ホームに寄付してしまったのだ。彼女の捨て台詞を、ソニーのデジタルビデオカメラが録画していた。
翌日、昼下がりまでかかってオンボロ自転車で出勤してみると、会社の玄関は鍵が閉まっていて誰もいない。警備員に聞くと、昨日社長が全社員を解雇したんだという。鍵はヘレンが持っていて、彼女は昨日のうちにヨーロッパ旅行に出発してしまった。彼女からの辞職願いがガラス扉にはさんであった。何てこったい。
銀行も2時で閉まり、間に合わなかったボクは途方にくれた。たちまちリッチなエリートは一文なしのビンボー人と化してしまった。トムは夕べ飲酒運転で帰る途中、事故を起こして、九龍半島側に入院中。ボクにはフェリーや地下鉄に乗る小銭もない。以前のガールフレンドを何とか呼び出してみると、彼女は子連れの妊婦。借金するところを阿彩とコーラに見つかり、ハンサムなのを武器に女を食い物にする卑劣なヒモだと誤解され「貸した600ドルを返せ」となじられてしまった。一応返したが、そこに現われたのが阿牛。阿彩はとっさにボクをボーイフレンドに仕立てることにし、600ドルが戻ってきた。ボクは彼女に調子を合わせ、阿牛を追い返した。
やっとトムに面会すると、1晩だけ様子を見て退院できそうだと言う。病院に付き添いとして泊まらせてもらおうとすると、隣のベッドのオバサンの子供がスペースを分捕っていた。その子供というのがムキムキのマッチョマン2人…やれやれ、今夜はどこに泊まらせてもらえばいいんだ? 思い出したのがコーラの電話番号だった。
阿彩が里帰りすると、父が阿牛との結婚話を持ち出す。都会暮らしを捨てたくない彼女は仕方なく、父親に「もう付き合っているエグセクティブがいるのよ」と恋人をでっち上げてしまった。すると父はその男を明晩、村に連れて来いと言う。困り果てる阿彩。
阿彩がコーラと同居するフラットに戻ってみると、なんとボクがソファーで寝ていた。彼女は気を悪くするが、コーラに「彼は一文なしになったみたいよ」と聞かされると「じゃあ6000ドルで私の恋人のふりをしない?」とボクに持ちかけてきた。うまい話だ、この際1万ドルならやってもいいぜ。
阿彩の実家に到着すると、なんと振られた阿牛とその父親もあきらめきれずにボクらを待ち構えていた。何とかボクを追い返したい彼らは、カードゲームでの賭けをボクに持ちかけた。ボクは気が進まないが、阿彩と組んで挑戦する。最初はボロ負け、借金がかさむばかり。ところが最後にツキが回ってきた。大勝利を収めたボクらに、阿牛は逆上して阿彩の父をなじり、両家は絶交することに。これで阿彩の結婚話も白紙に戻った。
二人並んで月を見上げながら、阿彩は思い出を話す。台湾出身の母は、腕白な10歳の彼女に「1年間いい子にしていたら、きっとおまえの誕生日に飛行船が迎えに来て、おまえを大観覧車やメリーゴーランドのある場所に連れてってくれるよ」と話してくれた。だが母は病気で入院、そのまま戻らず、彼女の夢はかなわなかった…。なんていじらしい女性なんだろう。ボクの胸はきゅんとなった。
退院したトムは老人ホームを回って、ボクの自宅の家具を何とか回収してきてくれた。彼はマーシャが残したデジタルビデオカメラを弄びながら、ボクと阿彩について語り合った。ボクは言った。「今まで、ボクの金でなくボク自身を愛して一緒にいてくれる女に出会ったことがない。ところが阿彩はボクを小市民だと信じてる。この感じはとてもいい」。トムは「でも君はいま、彼女を騙しているんだぜ」と心配する。なあに、女は男に騙されることなんか気にしないさ。大事なのは、彼女にボクが金持ちだと知られないことだけだ。もしも残酷な事実を彼女に告げたら、待っているのはどうぜ別離だけだ。
なんと、トムの事務所に阿彩の父が現われた。ボクのことを気に入ったが、ぜひボクの両親に会って挨拶し、筋を通したいと言うのだ。阿彩は不安がるが、ボクは阿彩に「ボクの友人の映画プロデューサーに頼んで、場所とエキストラを用意するから大丈夫」と告げた。ボクの自宅に集まったのは、実は父とボクら親子の知人ばかり。母親は愛人の画家まで連れてきた。阿彩はボクの複雑な家庭事情を知るが、少しも態度を変えなかった。父と阿彩の父はすっかり意気投合。下手な替え歌まで披露する始末だ。ボクと阿彩はダンスし、いい気持ちで抱き合った。二人はそのままベッドイン。満ち足りた一夜を過ごした。
翌朝。ボクより先に目覚めた阿彩は階下に降り、夕べのパーティーの映像を見ようと、あのデジタルビデオカメラを再生した。ところが映像の最後には、ボクとトムの会話が残っていたのだ。「なあに、女は男に騙されることなんか気にしないさ。大事なのは、彼女にボクが金持ちだと知られないことだけだ…」。ボクの嘘を知り、傷ついた阿彩。そこへ、なんとマーシャが乗り込んできた。彼女は「別れたのではなく、家出しただけよ!」と図々しく主張する。二人の前から逃げ出そうとしたボクは捕まり、マーシャも傷心の阿彩も飛び出して行った。「私は信じた男に騙されたら気にするわ!」と、ボクが彼女をもてあそんだと誤解したままで。ボクは二人の女にフォークで尻を刺されてしまった。あんまりじゃないか…。
朝になっても会議室でコーラと励んでいたトムに相談していると、ボクの父から電話が入った。ボクは仕事の都合で、どうしても今夜、ニューヨークに出発しなければならなくなった。あと14時間で、彼女に謝って愛を告白できるか?
ボクとトムは、阿彩とコーラの職場に乗り込んだ。「どうして私に本当のことを話してくれなかったの?」となじる彼女に、ボクは懸命に言い訳したが、彼女の怒りが爆発。ボクはみじめにもノサれてしまった…。だがコーラのとりなしで、ボクは今夜、火鍋レストランで彼女と再び話し合うことになった。
コーラはボクの財力を当てにして、勝手にレストランを借りきっていた。ボクはトムと阿彩の父と一緒に阿彩の前に現われた。いくら何でも父親の前で暴力はふるえないだろう。ボクは彼女の村に、遊園地を作ろうと言った。「君のためなら、君の母が言った言葉をボクがかなえるよ」。そこに、以前ボクに現金で払えと言った失礼なウエイター長が登場。
コーラが勝手に注文したロブスターの刺身や神戸牛のような高価な材料を運んで来て「勘定は8万8ドルだ、てめえ払えるんだろうな」と言いやがった。ボクは思わずカッとなり、阿彩の制止も聞かずウェイター長と取っ組み合いの喧嘩をおっぱじめた。
トムらの仲裁で、ボクは我に返った。だが阿彩は憤然として出て行き、もうどこにもいない。コーラとトムも「仕事がいちばん大事なんだろ、行けよ」と冷たい。がっくりしたボクは阿彩に心を残しながら、ニューヨークに旅立った…。
ニューヨークで、ボクはチャイニーズ女性セラピストのエンゼル・ラムにカウンセリングを受けた。ボクは自分の資産について、利息だけでも2億香港ドルあると素直に答えた。彼女は「まずあなたが知らなければならないのは、お金を持つことがあなたを幸せにするのではなく、お金を使うことであなたを幸せにできるということです」と言った。そのとおりかもしれない。ところが彼女は、カウチに横たわるボクに服を脱いで迫ってきた。いやそりゃ据え膳食わぬは男の恥だけど、ちょっと待て〜! ボクはもうこんなことにはうんざりなんだああ! 助けてえええ!
…結局ボクはセラピストに強姦(?)されてしまった。以後、ボクはみだりに自分の資産について口に出さないことを決意した。ああ、やっぱり阿彩が恋しい。あきらめきれない。早く香港に戻りたいが、彼女にはもう新しい恋人ができたんじゃないだろうか…。
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3ヵ月後。アフター5はジムで汗を流し、バタンキューと眠ろうと努力する孤独な阿彩だった。テレビをつけると、香港青年基金主席としてボクがにっこり微笑む。
誕生日なのに阿彩は一人ぼっち。トムはコーラにプロポーズ、あの友人のバーでパーティーを開き、阿彩には見向きもしない。レストランでやけ食いしていると、あのウェイター長が「君のBFは来ないのか?」と聞いてくる。実家に戻るが父がいない。「早く0時になって、みじめな誕生日が過ぎないかな」と母の遺影に話し掛け、涙をこぼす阿彩。やっぱりボクのことを忘れられず苦しんでいたのか。そこに携帯電話が鳴り、液晶画面にはテレビをつけろとボクからの携帯メールの文字が浮かび上がった。テレビをつけると、ボクが出現した。ボクは香港の全テレビ局を買収し、特別番組を編成させたのだ。ボクはテレビカメラに向かって「家から出てみて」とメッセージを伝える。驚いた阿彩が家から出てみると、彼女の写真がパネルになって道の左右に飾られている。行く手には、トムやコーラ、彼女の父らが待っていた。「お誕生日おめでとう、阿彩!」。
「彼はどこなの?」花束を受け取った阿彩が嬉しげに聞いた。「ボクはここさ!」ボクは正装で颯爽と登場する。空の上には飛行船が浮かんでいる。そしてボクが”白馬の王子様”として、彼女をエスコートして飛行船に乗り込んだ。ケチはもうやめた、とボクは彼女に愛を誓った。夏はヨーロッパで、冬はアフリカで二人で過ごそう。彼女は「いいわ、それよりも私にお金をちょうだい。倹約すべきときと使って楽しむべきときを、ちゃんと管理するから」と言う。彼女の堅実な金銭感覚なら大丈夫だろう。でもまずは、甘いキッスからだ…。
註:この物語はレオン・ライ&マギー・チョンの「ひとめぼれ」やアンディ・ラウ&張敏の「與龍共舞」やトニー&チンミー・ヤウの「偸偸愛イ尓」、ましてや「同居蜜友」「ゴージャス」のパクリではありません(^_^;)
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