ブエノスアイレス
「春光乍洩」は春の日差しが(雲の間から)洩れ出てくるという、早春の訪れの表現なのだが、カンヌ映画祭グランプリに輝いたアントニオーニ監督作品「欲望Blow-up」(66)の中国語題になってしまってから意味が変わってきた。この映画はカップルを盗み撮りしたカメラマンが主役の一種のサスペンスなのだが、ミニスカートからパンティがちらり、なーんてときにも「おお、春光乍洩!」とスケベな香港人が喜ぶのである。困ったもんだ。もちろん王家衛はパンチラではなくアントニオーニ作品の題名を使いたかったそうである。

happy together Stuff&actors

香港での上映期間:1997年5月30日〜7月16日  48日間  興収:860万141香港ドル
製作:春光映畫/配給:嘉禾娯楽
プロデュース・監督・脚本:ウォン・カーワイ王家衛/撮影:クリストファー・ドイル杜可風/美術、服装、編集:ウィリアム・チョン張叔平/音楽:ダニー・チョン鍾定一
キャスト:トニー・レオン(ファイ黎耀輝)、レスリー・チョン張國榮(ウィン何寶榮)、チャン・チェン張震(チャン)
97年9月日本公開(プレノン・アッシュ配給)
happy together STORY
ポストカードより。くわえ煙草のトニーとれすりの宮。

 香港の裏側、アルゼンチンにやって来たファイ黎耀輝とウィン何寶榮。イグアスの滝に行こうとしたが口喧嘩の末、ウィンが突然姿を消した。ブエノスアイレスの安ホテルに滞在し、場末のタンゴ・バーの呼びこみに雇われたファイ。西洋人と戯れながらウィンが店にやって来た。夜、ファイの元にウィンが現れた。「俺たち、またやり直そう」―ファイははねつけ、怒りに任せて彼を追い出す。
 ある夜、傷だらけのウィンがファイの元に転がりこんできた。仕方なく介抱するファイ。彼は中華料理店の厨房で働き出した。同僚のチャンは、勤務中に長電話を続けるファイが気になる。ウィンの傷が治ると口論がまた始まった。ウィンがフラットを空けた夜、ファイは彼の所持品からパスポートを取って隠した。
 パスポートを探して荒れ狂うウィン。ファイはひるまず微笑んで言う。「返す気はない」。ウィンは憤然と出て行った。

 ファイは精肉工場に転職した。チャンは世界の果て≠ノ行くため、ブエノスアイレスを去ると言う。深夜のバーでチャンが録音機を渡し「何か声を吹き込んでくれ、あんたの悲しみを捨ててくるから」とせがんだ。ファイは録音機に向かい、何も言えずに忍び泣く。
 イグアスの滝に一人で来たファイ。(ここには2人で来るべきだった)と彼は思う。その頃、ウィンはファイが泊まっていた安フラットを訪れ、毛布を抱きしめて号泣していた。
 ファイは台湾へ向かった。賑わう遼寧街夜市。ある店で、彼はチャンの写真を見つけた。その店はチャンの家族が経営していたのだ。写真をそっと盗み、ファイは台北のトラムに乗り込む。「俺は確信した。会いたいとさえ思えば、いつでもどこでも会えることを」と彼は心で呟く。
happy together View Point

・待った、まった、完成をどれだけ待ちわびたことか。撮影中に神戸100年映画祭に招待され、ブエノスアイレスからやって来て陳凱歌と抱き合ったりしてはしゃぐクリストファー・ドイルに八つ当たりしたりもした。(お返しにほっぺたにチューされてしまった。ぢくじょー、そのキスをトニーに!)
・トニーが同性愛者役、それもあのレスリーと愛し合うと聞いたときにはにわかに信じられなかった。「役柄に入り込んでしまうタチだから、そういう役はゴメン」とあれだけ回避してきたトニーなのに。自分の知らなかっためくるめく官能の世界を王家衛一味によってたかって開発され、発見してしまったらどーしよーとどれだけ心配してもトニーは地球の裏側。切なかった。

・こんなにこんなにトニーが出ずっぱりなのに、レスリーだけを最優秀主演男優賞候補にした台湾金馬奨審査員らにはつくづく呆れた。そりゃレスリーの方が音楽・映画界で興行的には上だとしてもさあ……。

・「100回見る、トニーなんてどうでもいい、レスリーしか見えない」と繰り返しハガキだの手紙だのくれたレスリーファンのF小姐、どうしてる?あなたの無遠慮さとイヤミでレスリーファンの肖像画が随分訂正され、鍛えられたわー。

・ おなか壊した、死にかけたと騒ぎ続けたレスリーの「お顔の調子」もひどいが、トニーもかなり参ってたのが表情で見てとれる。船に乗ってぼうっとしている顔も(二日酔いだったにせよ)、険悪を通り越して悲惨。それが音楽に騙されて、思い通りにならない愛に苦悶する表情に見えてくるんだから映画ってフ・シ・ギ。
・黙々と働く肉体労働が、こんなにトニーに似合ってみえるのは三島由紀夫刈りの髪型のせいか。「ダンス・イン・ザ・ダーク」男編だって演じられそうだな。いきなり歌って踊り出すのは無理だけど(^_^;)

・当初報じられていたのは、死んだ父親の愛人の存在を知ってブエノスアイレスに渡る息子の、父に対する葛藤と愛人への複雑な思いを描くというストーリーだった。そっちも見てみたかったなあと思う。半ば嫌悪感を持って対峙していた父の愛人=レスリーに巧みに誘惑され、ストレートだったつもりの自分のなかにも、父親と同じ欲望が蠢いていると気づいて抜き差しならなくなり、婚約者とも別れてしまう男って、トニーなら絶対演じられる!

・語られなかったストーリー、撮影されなかったシーンにいつも思いを馳せさせられてしまうのが王家衛作品。その手に乗ってしまうのもまた一興か。

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